すっかり親しくなって、
信一さんとは、定期的に、会っていました。
彼は、H市に片思いの女性がいると言って、
郁美には手を出さないみたいなので。
H市は、義父の10歳年上の伯母がいるはずなんです。
この間、そ、思っていたら電話がかかってきて。
あんたが、郁美ちゃんかい。
困ったことがあったら、あたしんとこおいで。
H駅に着いたら教えんだよ。駅からすぐっとこだから。
信一さん、片思いの人ってどんな人なの?
背が俺近くあって、細面で、いつもポニーテールで
男みたいにサバサバシタ女でさ。
でも、笑顔が最高なんだよ、時々しか笑わないンだけど
会いたいなあ、とっても会いたい。
郁美ちゃん、一緒にHまで行こう。
信一さんは会うたんびにそういうのですが、
Hに行くには、日本で一番寒い都市のAを通り
一番の大都会Sをとおり、Tをとおり海沿いにたくさん
車で行かないと着きません。
ちょっと行くわけにはいかないわ。
どうしましょうねえ。
信一さん、片思いは遠きにありて思うものよ。
そりゃ、郁美ちゃんの彼みたいに両想いならさあ、いいけど
おれはそうもいかないんだよなあ。
ねー行かないか。俺はさ、一目見るだけで満足なんだけどな。
しょうがないわね、じゃあ、いつかね。
ホント??俺、本気だよ。郁美ちゃんと一緒に行けたら
絶対に楽しいと思う、クルマで行こうぜ、こいつで。
信一さんはワゴン車をはたくととても嬉しそうにしていたので
郁美はにっこりして言ったんです。
それが案外、ホントになったの。びっくりよね、人生って。